捨てても、捨てようとしても、いくらもがいても付いてくる。 一人歩きして、いつまでも俺に付き纏う。 シュバーン・オルトレインの名 「シュバーン隊長に、敬礼!」 「だぁかーらぁ…俺様はレイブンだって言ってるでしょーよ?」 「はっ!失礼致しました!レイブン隊長ー!」 …たく、このマジメな小隊長は… いや、こいつだけじゃない…か。 ザーフィアスに戻れば、必ず誰かが呼んでくる。 騎士団首席の名は伊達じゃない。 自分が捨てたつもりでも、誰かが拾って、投げつけてくる。 「だからって、何で俺のトコばっかり来るんだよ?おっさん」 「ひどーい、ユーリくん。傷ついたおっさんの心、慰めて?」 帝都に来ると、必ず立ち寄るようになった下町。 タイミングがいいのか、暇なのか…俺がくる日は必ずいる青年。 城での用が終わると、酒場で一緒に呑むのが習慣となっていた。 「だってー…ダングレストに帰っても、カロル少年は未成年だしー…おっさん淋しいもんっ」 「可愛くねぇし」 「ひっどーい!」 何だかんだ、凛々の明星が自分の拠り所になっている。 それに甘えている自分がいる。 ココでは、“レイブン”でいられるから。 「レイブン」 「は?何よ?改まっちゃって」 「レイブンは、レイブンだよ。いい歳して気に病んでんじゃねぇよ」 青年は平手で軽く頭を叩いてくる。 「いい歳は余計よ」 この青年に、甘えてる自分がいる。 「シュバーンは死んだよ」 「そーだな」 でも、悪くない。 「シュバーン・オルトレインはザウデで騎士団長殿と一緒に死んだのよ」 「何だよ。それこそ改まって」 「言わせてよ。年を取ると愚痴っぽくてね …ザウデ…でもないわ。10年前に死んでたのよ。 体だけが一人歩きして…名前も、一人歩きしちゃった。迷惑な話…」 ガタンッ!と青年が急に立ち上げると、俺の腕を引っ張った。 会計をとりあえず済まし、裏路地に引っ張り込まれると、いきなり抱き締められた。 「ちょ…!?ちょっ…と?ユーリくん?」 「レイブンは…生きてる」 「……そー、ね」 青年は、俺の心臓魔導器に耳を当てて、なおも強く抱いてくる。 酔ってる…わけじゃない。 これは青年の優しさ。 「レイブンが生きてるのは、シュバーンの存在があったからだ。 迷惑…じゃない。今のあんたの為にいたんだ…」 青年の顔は見えない。 どんな顔をしてるか見たかったケド、今の自分の顔を見られたくない。 「俺は……俺には、シュバーンは…いて、良かったと思うぜ」 酒のせいだ。目の奥が熱い。喉元もチリチリする。 「…うん…そだ、ね。ありがと…」 それしか言うことができなくて、顔を見られたくないばかりに 不覚にも、青年にしがみつくしかなかった。 「あーぁ…情けないトコ、見られちゃったわ」 「そーだな、見ちゃったな」 ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべる青年には、皮肉も言えない。 「ま、いいんじゃねえの?たまには甘えとけ」 また頭をポンポン叩かれる。 「……」 情けない。でも、こうして甘えられる誰かがいるのは悪くない。 「ユーリ君も甘えていいわよ?おっさんの胸にどーんと来なさい」 「女性専用じゃねぇの?」 「特別に許してあげる」 「シュバーン隊ちょ…!いや、失礼しました!レイブン隊長!」 「んぁ?あー…もぉどっちでもいいわよ」 「は!…え…よろしいのですか?」 あれだけしつこく注意してきたからか、騎士団員は不思議そうな顔をしている。 「あ、でも出来たらレイブンね。俺はレイブンだから」 「はい!かしこまりましたー!」 ひらひら手を振って、団員を見送る。 外に出ると、空は青く晴れ渡っている。 「ふぁ…あー、っと。行くとするかね…」 下町へ。きっといるでしょ?あの青年は。 こないだの礼も兼ねて、青空の下で呑むとしますか。 **************************************************************************************** 初のユリレイSSです。 レイブンとして生きることにしたレイブンは「シュバーン」って名前に抵抗があるんだろーなーっと。 でも、首席ですから。有名ですから。呼ばれないわけはない。 それに痛みを感じて、青年に甘えちゃえばいいんじゃない? って感じで書きました。 稚拙な文で申し訳ありませんでした。 |